脳神経外科
脳神経外科について
脳神経外科では脳卒中(脳出血、脳梗塞、クモ膜下出血)、脳血管障害(脳動脈瘤、狭窄性・閉塞性脳血管障害、頚動脈狭窄、もやもや病、脳動静脈奇形)、脳腫瘍(良性腫瘍、悪性腫瘍、転移性脳腫瘍)、頭部外傷、機能的疾患(顔面痙攣、三叉神経痛)などに対する外科治療を専門的に行っております。開頭手術、脳卒中の外科手術、神経内視鏡手術の専門医が在籍しており、同一施設内で適切な治療を提供することが可能となっております。
脳梗塞
超急性期脳梗塞に関しては、さいたま市の基幹病院として機能しており、内科と連携し、必要があれば、最新のデバイスを用いたカテーテル治療、急性期血行再建術(血栓回収)を速やかに行います。また、頚動脈狭窄症に対するステント留置(CAS)、頚動脈内膜剥離術(CEA)なども施行しています。
脳梗塞時MRI |
術前血管造影 |
血栓回収用ステント |
術後血管造影 |
頚部頚動脈狭窄症 | |
術前血管造影 | ステント留置後血管造影 |
クモ膜下出血、未破裂脳動脈瘤
○クモ膜下出血
脳動脈瘤は破裂すると、クモ膜下出血という重篤な病気になってしまいます。救急搬送時は既に出血が止まっていることがほとんどですが、再破裂を起こすと致命的になるために発症早期(72時間以内)の再出血予防手術を行う必要があります。
当院では脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血に対して、再破裂の予防のために緊急手術を行い、良好な治療成績を上げています。動脈瘤の形・部位、大きさや血腫の有無、脳の腫脹などにより治療方針を決定しています。従来より行われていた開頭クリッピング術の他に血管内治療によるコイル塞栓術もあり、病状に応じて治療方針を選択しております。
○未破裂脳動脈瘤
破裂していない動脈瘤を未破裂脳動脈瘤といいます。破裂してクモ膜下出血になってしまうものは大きさや部位、形状にもよりますが年間で0.5-5.0%程度とされています。大型や形が不整なもの、血縁にクモ膜下出血がある人、高血圧を持っている人が破裂率が高いとされています。病状に応じて、経過観察や治療方針について相談させて頂きます。
○治療方針
治療は手術であり、開頭手術、カテーテル手術があります。どちらも全身麻酔で行う手術です。カテーテル手術の場合、低侵襲で頭を開けなくて良いという利点がありますが、抗血小板剤の内服や動脈瘤の再発があり、再治療が必要な場合があります。また定期的な検査を半年から1年に1度入院する必要があります。開頭手術の場合、頭を開ける必要がありますが、1度で治療は終了することがほとんどで根治性に優れています。病状に応じて適した治療を提供させて頂きます。
開頭クリッピング術 | |||
発症時CT |
術前造影3DCT |
クリッピング術後血管造影 |
クリップ |
コイル塞栓術 | ||
術前血管造影 |
コイル塞栓術後血管造影 |
コイル |
脳動脈瘤クリッピング術 |
閉塞・狭窄性脳血管障害、もやもや病
○病状や症状
頭の中や頚部の内頚動脈、中大脳動脈といった太い血管に高度の狭窄・閉塞を認める場合は、脳血流の低下を認め、脳梗塞を発症するリスクがあります。脳梗塞になった場合は、麻痺、言語障害、視力障害、認知症、意識障害などを認めます。通常はまず抗血小板剤という血液をさらさらにする内服治療を開始します。内服薬で効果が不十分な場合や、MRIや脳血流検査で脳血流の低下を認めている場合はバイパス術を行うことがあります。
脳神経外科で扱うバイパス術は脳梗塞の原因となる内頚動脈・中大脳動脈の高度狭窄や閉塞、もやもや病という内頚動脈先端が徐々に狭窄する疾患が主に対象となっています。
○バイパス手術
血流低下に伴う脳梗塞や一過性脳虚血発作、もやもや病では脳虚血症状に加えて脳出血に対しても有効性が示されています。バイパス術は、血管の狭窄・閉塞により頭蓋内で血流が低下した部分に新たな血管を繋ぎます。脳の血流を改善することが目的であり、今後起こりうる脳卒中の再発予防です。頭部の皮膚を栄養している血管(浅側頭動脈 STA)を脳の表面の血管(中大脳動脈 MCA)に直接縫い合わせる手術(浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術 STA-MCAバイパス術(直接バイパス術))です。1mm前後の血管に縫い合わせることもあり、顕微鏡を用いて行います。直接血管を繋ぐことから効果的であり、脳表の血流を確実に改善出来る利点はありますが、細い血管を繋ぐために繊細な技術を必要とします。
成人もやもや病に対して、当院では全例に直接バイパス術を行い、病状に応じて間接バイパスを追加します。小児もやもや病に対しては、直接バイパス術と間接バイパス術(脳に血管や筋肉を敷く方法)を組み合わせた複合バイパス術を行うことが多いです。
STA-MCAバイパス術 |
○指定難病の申請
もやもや病と診断され、治療が必要な場合は、厚生労働省の特定疾患として、医療費助成の対象となっています。申請を行うことで今後の医療費に対して一定の公的補助を受けることが出来ます。申請につきましては保健所や福祉事務所にご相談下さい。当院でも相談は承っておりますので、いつでもご相談下さい。
当院では脳卒中の外科学会技術指導医の有資格者が在籍しており、クモ膜下出血、脳動脈瘤クリッピング術、バイパス手術、頚動脈内膜剥離術、開頭血腫除去術などの脳血管障害の手術に関して担当しています。最新式の術中神経学的モニタリング(MEP、SEP)、蛍光診断(ICG蛍光色素検査)、術中超音波診断などの装置を駆使して安全な手術を心掛けています。
脳出血
脳出血に対する開頭血腫除去術、脳動静脈奇形に対する塞栓・摘出術 などを行っております。
脳出血 | |
術前CT |
術後CT |
硬膜動静脈瘻 | ||
術前CT |
術前血管造影 |
摘出術後血管造影 |
SCU 脳卒中ケアユニット
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SCU 脳卒中ケアユニット |
脳神経外科の疾患は 脳卒中(脳血管障害)、頭部外傷、脳腫瘍、機能、脊椎・脊髄、小児などの専門分野に細分化されていますが、当院は救急の需要が多く、必然的に、脳卒中、頭部外傷などの救急疾患、特に、脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など)の治療がメインとなります。2018年からは SCU(Stroke Care Unit)という 急性期脳卒中患者専用のICUに準じたモニターや人工呼吸器などを備えた病床をオープンし、急性期リハビリテーションを含めた全身管理を行っています。
【脳血管障害(脳卒中)】
当院は埼玉県の脳卒中ネットワークの基幹病院であり、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など急性期の脳卒中治療を完結することが可能です。治療として、急性期の血管内血栓回収術、脳血管内カテーテル治療、頭蓋内外バイパス手術、頚動脈内膜剥離術、血腫除去術、開頭クリッピング術などを行うことが可能です。
○SCUについて
脳卒中の初期治療を、効率的に行うために開設されたものを脳卒中ケアユニット (SCU; Stroke Care Unit)といい、当院では2018年より、設けています。SCUは、急性期の脳卒中患者を専門的に受け入れ、豊富な人員配置をはじめ、専門の多職種のスタッフが脳卒中診療に参加し、効果的な治療・看護・リハビリテーションなどを専門的に行い、これまでより死亡率を下げ、自宅退院率を増加させ、日常生活能力や生活の質の向上を目的とした脳卒中の専門病床です。
○リハビリテーションへの移行
当院ではリハビリテーションが必要な患者さんを急性期リハビリテーションから、当院もしくは他院での回復期リハビリテーションへスムーズに移行するようにしています。
○SCUガイドライン
脳卒中治療ガイドラインではSCUで治療することにより、死亡率の減少、ADLの改善による自宅退院の増加、日常生活能力の改善を図ることが出来ると記載されています。
頭部外傷
外傷に関しては、2次救急の範囲で 急性硬膜外血種、急性硬膜下血種に対する開頭術、慢性硬膜下血種に対する穿頭術などを行っております。
急性硬膜下血種 | |
術前CT | 術後CT |
慢性硬膜下血種 | |
術前CT | 術後CT |
脳腫瘍
○脳腫瘍とは
脳腫瘍には脳の実質からできるもの、脳の神経からできるもの、脳を包む膜からできるものなど様々なものがあります。脳腫瘍の性状には良性、悪性があり、診断に応じて治療を行っていきます。良性腫瘍であっても、脳を圧迫することで様々な症状が生じ、意識障害や命に関わることもあります。
○脳腫瘍による症状
脳腫瘍による症状は頭痛、吐き気、物忘れ、手足の麻痺やしびれ、言語障害、けいれん発作などがあり、腫瘍の増大に伴い進行していきます。
○診断
脳腫瘍の診断はMRIやCTなどで可能ですが、最終的な組織学的な診断(良性、悪性など)は手術で摘出した標本の顕微鏡による病理学的検査で確定します。
○手術
手術に関しては、良性腫瘍、悪性腫瘍、転移性脳腫瘍など脳腫瘍全般に対して行っております。水頭症や下垂体部腫瘍に対しても、低侵襲な神経内視鏡を用いた手術を行っております。最新型の術中神経学的モニタリングシステム(ABR、MEP、顔面神経モニタリングなど)を駆使して、神経が正常に機能しているかリアルタイムに確認し、機能温存に特化した手術を行っております。
内視鏡を用いた経鼻的下垂体腫瘍摘出術 |
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術前MRI | 術後MRI |
異型性髄膜腫 |
最新式の術中神経学的モニタリング | |
運動誘発電位 (MEP)、体性感覚誘発電位(SEP)、聴性脳幹反応(ABR)、顔面神経モニタリングなど |
顔面けいれん、三叉神経痛
頭蓋内の脳血管が年齢と共に動脈硬化が進行し、神経を圧迫することで生じる疾患に「顔面けいれん」と「三叉神経痛」があります。
○顔面けいれん
顔面けいれんは顔の片側がピクピクとけいれんするものであり、目の外側から、頬、口の周りに及びます。緊張したり、ストレスがかかった場合に起こることが多いですが、ひどくなると1日続き日常生活に支障が出るようになります。
○三叉神経痛
三叉神経痛は顔の感覚の神経を圧迫されることで顔の片側に激痛を認める病気です。痛みの誘発するものには、顔に触れる、ものを噛む、洗顔をする、ひげ剃りなどがあります。痛みは非常に強く日常生活に影響を及ぼすものです。食事が出来なくなる場合もあります。
○治療方法
どちらの疾患も基本的には内服薬が効果がある場合は手術は行いません。内服薬による副作用が強いとき、効果が乏しい時には代替治療(ボトックス注射、放射線治療、神経ブロックなど)も提示させて頂き、手術を検討します。
○手術(微小血管減圧術)
手術は血管を神経から離す手術(微小血管減圧術)を行い、 90~95%以上の方で症状は改善します。通常鍵穴という頭蓋骨を開ける範囲が小さい手術を行いますが、当院ではそれに加えて、骨の形をできる限り元の形に維持出来る手術を行っています。この手術では聴覚の神経の近くを操作することから、聴力のモニタリングが非常に重要です。当院では術中に最新式の神経学的モニタリングを用いてABR(聴性脳幹反応)モニターを行い、聴力の温存に努めています。
椎骨動脈による神経の圧迫 |
除圧により、神経の圧迫が解除 |
微小血管減圧術 | |
術前MRI | 減圧術後MRI |
顔面けいれん |
○外視鏡を用いた侵襲の少ない脳神経外科手術
新たな手術顕微鏡システムである4K3D外視鏡「ORBEYE™」を、さいたま市内の病院では初めて導入しました。新規に開発された外視鏡では、高精細モニターを見ながら手術を行う形式です。これにより従来の顕微鏡では不可能であった角度や広い手術野での観察が可能であり、手術時間の短縮や開頭範囲の縮小による低侵襲な手術が可能となっています。当院脳神経外科では従来の顕微鏡と最新の外視鏡を併用することで、手術の安全性と確実性を高めています。
4K3D外視鏡 ORBEYE™ |
その他として、正常圧水頭症(特発性・くも膜下出血術後など)に対して、脳室腹腔(VP)シャント、もしくは腰椎腹腔(LP)シャント を施行します。
手術担当医、診療責任者は脳神経外科学会専門医・指導医、神経内視鏡学会技術認定医、脳卒中の外科学会技術認定医・指導医であり、手術症例の紹介や、他病院より招聘を受け手術を行うこともあります。当院の基本理念である安全で良質、かつ高い倫理観をもとにした医療を提供し、さいたま市の医療に貢献出来るようにしております。
医師
鳥橋 孝一 |
脳神経外科 科長
日本脳神経外科学会脳神経外科専門医 日本脳卒中の外科学会 技術指導医 日本神経内視鏡学会 神経内視鏡技術認定医
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